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タイトルももちろん(仮)。

 休日の大通りともなると、その人込みというのは凶悪ですらある。
 そんなことを考えながら、クロードは人の隙間を縫うようにするりと道を通り抜ける。人込みが得意でないわりに、こういった術は妙に上手い。いや、人込みが苦手だから、その苦痛を味わわずにすむように妙に上手くなったのだろうか。
 まったく、どこからこんなにも多くの人間が湧いて来るのだろうかと、その場に居合わせる己を棚にあげて思う。
 そんなどうでもいい思考に嵌りすぎたのか、小路から出てきた人影と、クロードにしては珍しく思い切りぶつかってしまった。クロードが気付いたときには、その人影はちいさく悲鳴をあげて尻餅をついていた。
「――っと、これは失礼」
 板についた紳士ぶりでクロードは件の人影に手を差し伸べる。
 恐らくは知人、例えばエーリヒ辺りが見たら呆れること請け合いだったが、クロードは他人に対して紳士さを発揮するのを手間とは考えなかった。もちろん相手にもよるが、少なくとも今は惜しむような場面ではない。
 人影は女性だった。差し伸べられた手に対して、手探るように手を差し出していたが、クロードの手に一度触れたあとはしっかりと握り返してきた。
 彼女を片腕で引き起こしながら、ほう、とクロードは感心するように密かに息を漏らした。
「あ、ありがとうございます」
 存外にしっかりとした口調で礼を言われた。だが、その視点は定まっていない。
 弱視か、盲目なのだろう。
「いえ、ぶつかってしまったのは、こちらにも非がありますのでね」
 クロードが感心したのは、ほとんど目は見えていないだろうにも関わらず、彼女がこちらの差し出した手を察してすぐに手を伸ばしてきたことだった。
 この人込みのなかで、空気の流れか音かは分からないが、それを察したのだ。随分と慣れた様子はそれが長い間に培われたものであるということを容易に想像させた。
「それにしても、貴方のような女性がこのような人込みを一人で出歩くというのは、いささか危険すぎやしませんか? せめて供の一人でもつけては」
 あくまでも世間話の延長として、クロードは彼女にそう言った。
「あ、いえ。実は連れがいるのですが、はぐれてしまって。大通りにいれば、彼女の方から見つけてくれるとは思うのですが」
「ああ、そうでしたか」
「はい。ご心配いただき、ありがとうございます」
 ごく儀礼的なクロードの言葉にも、深々と頭を下げて礼を言う。
 ほっとしたように笑う表情は、彼女が抱えるであろう様々な事情を感じさせない。見たところは裕福な家庭の子女といったところだが、であるのならば、連れというのも従僕か何かだろう。
「ところで……、不躾なことだとは思いますが、一つ、よろしいでしょうか?」
「なんでしょう?」
 唐突に尋ねられ、首を傾げながらもクロードは応じた。
 彼女が口を開く。
「貴方は、悪魔の方でいらっしゃいますよね?」
 そうして、彼女はあっさりとクロードの正体を看破した。
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