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続きは気が向いたら。

 大陸網状高速線のホームに降りたてば、空気が少しだけひんやりとしていた。
 ドームに覆われたエレクトリカルシティでは味わえないその空気を、ロイドは荷物を手にしたまま少し、吸い込む。遮光障壁越しでない、埃っぽさも含んだ空気だった。
 西方区の更に西端の地、ウェスタ・ブルトン。着いたのはハットフィールド駅。主要四区の都市を結ぶ大陸網状高速線の、西の終着駅だ。これより西へは各路線への乗り換えが必要となる。
 幸いなことに、ロイドの目的地はこのハットフィールドだった。情報端末で支給された電子チケットを確認するまでもない。そのかわりに、胸ポケットから一枚の紙を取り出した。
 電子通達は出ているが、それでもこういった文書はエレクトリカルシティでさえ紙媒体でやりとりされる。すなわち、人事通達の類である。
 下された辞令は、ハットフィールド署への転属。
 北方区から他の地区への転属というのは、別段珍しい話ではない。それが左遷であるならば。
 だから、左遷でない転属であるロイドは珍しい部類に入るのだろう。
 こういった転属の類は大抵が事前に根回しがされるものだが、今回に限ってはそれもなかった。それほど急を要する話なのかと思いきや、配属の日付は即日ではなく、明日になっている。
 もちろん、今日は末日だから月替わりで月初一日からの配属というのはおかしい話ではない。だが、どうにも腑に落ちないのもまた事実だった。
 引っ越しなどにあてるべき猶予期間は三日間。それが多いのか少ないのか、ロイドにはよく分からなかったが、すでにあらかたの荷物はこちらの寮へと手配済みだ。最後の一日である今日で、自身を現地へ移動させて終了となる。
 とはいえ、実際に寮に入れるのは配属日からだった。そのあたりの融通をきかせようと思えば通らないでもないのだろうが、そこまでする必要もロイドには感じられない。だから今日は、どこかで宿を取って休むつもりだった。どうせ明日にはいやでも職場へ行かなければならないのだから、転属の挨拶はそのときでいい。それに、猶予期間は非番扱いとなるはずだ。
 まずは駅を出て、今日の宿を探すのが先決だろう。
 大して多くもない荷物を持ち上げると、ロイドは改札へと向かった。
 精算ゲートをくぐれば、目の前にはコンコースが広がっている。ウェスタ・ブルトンの主要産業は観光であり、ハットフィールドはそのなかでも中心となる都市だと、ここに来る前に読んだ資料で確認している。だから目の前に広がる光景というのは、その観光という産業に耐えうる景観なのだろう。
 実際に、そこはちょっとした観光名所でもあるのだろう。
 煉瓦敷きの広場の中心には噴水が誂えてあり、地元の住民のほかにも観光客と思しき人間が大勢見受けられた。彼らを相手にしていると思われる食べ物屋台もいくつか出ていて、平日であるにも関わらず、話し声のさざめきが広がっている。
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