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結構最初の場面。

 幽霊というものについて、「馬鹿馬鹿しい」と一笑に付すような否定派ではないが、積極的に見えるだとか信じるだとか、そういうつもりもなかった。
 しいて言えば、「まあいても構わない(ただし無害ならば)」というところだろうか。
 なので、割り当てられた寮の一室について、散々脅しにも似た噂話を同僚に吹き込まれようと一向に気にせずロイドは睡眠を貪っていた。
 その睡眠が破られたのは日付が変わってしばらくの頃だった。
「――こんばんは」
 降ってきた声はか細く、今日のような無風の夜でなければ耳に届いたかどうかも危うい。それでもロイドが目を醒ましたのは、それが明らかにこの空間においては存在するはずのないものだったからだ。
 すなわち、女性の声だった。
 職務本能に従い起き上がると、ベッドの脇には若い女性がやや驚いた表情で立っていた。
 栗色の長い髪は腰までもあるだろうか、はしばみ色の目が見開かれているのを含めても、美人と評するに遜色のない容色だった。
 だが、それもロイドにとってはあまり意味のないことだ。
 彼にとって、確認すべきことは決まっていた。
「不法侵入の現行犯か。随分と堂々としているな」
 特に凶器の類の所持は認められない。であれば、抵抗されてもこちらが怪我を負う可能性は低い。確認の後、まずは逃げられないようにその手首を掴もうと腕を伸ばす。
 だが、その行動は果たされなかった。
「……」
 伸ばした手は彼女をすり抜け、そこには何の感触も存在していない。
 思わず、自分の手と彼女の姿とをまじまじと見比べてしまう。ようやく我に返った女性が慌てたように声を出した。
「ええと、あの、私、不法侵入者じゃありません」
「なるほど、幽霊というやつか。……が、ここがハットフィールド署の寮で、俺の部屋である以上、招かれざる者はすべて不法侵入者だろう」
 幽霊に対して言うべきかはともかく、ごくまっとうな言い分ではあったが、女性はそれに対しても首を振って否定の意を示してくる。
「いえ、そもそも侵入をしているわけではないのです」
「そうか、では退去願いたい」
「はい?」
 即座に返された言葉に、やはり最前と同じく彼女は目を見開いて驚きを伝えてきた。
「何にしろ、寮費を支払っているわけではないのであれば、居住権を主張できないはずだ。こちらは正当な手続きのもとにこの部屋の主となっているわけだから、退去命令を発令するのは不当とはいえないはずだ」
「え、ええと……」
 おろおろと視線を彷徨わせ、何故だか泣きそうな顔になる。
 こちらが悪いことをしているように見えて、なんだか気分が悪い。
 ロイドが更に声をかけようとしたのと同時、安っぽい部屋の扉が音を立てて開けられた。
「あーっ、駄目じゃん新人君! オーレリア泣かせてるー」
「…………ルーカス警部補」
 深夜にもかかわらず甲高い声でかしましいことこの上ない登場をしたのは、昼間に紹介されたばかりの同僚だった。
「ルークでいいっつったじゃん。それはおいといて、駄目だよ女性を泣かせたらー」
「死んでしまえば男も女もないかと」
「うっわ、ちょっとそれは言い過ぎ! てか、オーレリア、どこからどうみても女の子じゃん。僕、さすがに彼女のこと男に見るのは無理があると思うけど」
 ルーカスが指さす方向では、オーレリアと呼ばれた女性の幽霊が困ったような顔でこちらとルーカスを見比べている。
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